ホワイトティー、アールグレイの次は「HINOKI & THYME」—プロモツールのマスター調香師・渡辺武志に聞く、香りの設計思想

プロモツール香り技術研究所が、2027年の香りとして提案する「HINOKI & THYME」。※前回の記事では、香りの構成やホテル・オフィスなどでの活用方法をご紹介しました。今回は、「ホワイトティー&タイム」「アールグレイ&タイム」から続く開発の考え方と、ヒノキの新しい魅力を引き出す工夫について、香り技術研究所所長/マスター調香師の渡辺武志に聞きました。本記事は、渡辺への書面インタビューの回答をもとに編集部で構成しています。

「ホワイトティー&タイム」から「HINOKI & THYME」へ続く、タイムという軸

——プロモツールにとって、タイムはどのような香料・存在でしょうか。

渡辺:当社にとってタイムは、商品開発の一つのテーマとして大切にしてきた素材です。きっかけは「ホワイトティー&タイム」の開発で、その後「ホワイトティー&タイム ナチュラル」「アールグレイ&タイム」へと展開してきました。

ハーブ特有の清々しさやグリーン感を持ち、組み合わせる素材で表情を変えられる点が魅力で、タイムを共通のテーマとして継続的に展開することで、当社ならではの香りの世界観をつくり、他社との差別化にもつなげられると考えています。

2027年の「HINOKI & THYME」も、ヒノキと組み合わせることで森林浴を思わせる心地よさと、新しいウッディフレグランスの可能性を表現したいと考えています。

ヒノキに着目したきっかけ——森林医学の知見と赤沢自然休養林

——数あるウッディ系の香りの中でも、なぜ2027年は「HINOKI」に注目したのでしょうか。

渡辺:ヒノキに注目したのは、当社の顧問であり、森林浴研究の第一人者である李卿教授(日本医科大学)のご指導のもと、森林浴との関わりが深い赤沢自然休養林のヒノキに着目したことがきっかけです。

赤沢自然休養林は、長野県木曽郡上松町に位置し、森林浴発祥の地として知られています。樹齢数百年に及ぶ木曽ヒノキが育つこの森は、森林浴の魅力を象徴する場所です。

こうした研究の背景を踏まえ、ヒノキをウッディ系の香料として捉えるだけでなく、森林浴という体験や、木々に囲まれて過ごす心地よい時間まで想起させる香りとして表現したいと考えました。

木々が立ち並ぶ森のモノクロ写真。ヒノキと森林浴のイメージ

なぜヒノキ単体ではなく「タイム」を重ねるのか

——ヒノキ単体ではなく「HINOKI & THYME」とした理由と、香りの印象の変化を教えてください。

渡辺:ヒノキ単体では、木の温もりや落ち着き、森林を思わせる印象が中心になります。タイムを組み合わせると、グリーン感やハーバルな清々しさが加わり、より立体的で現代的な印象になります。

青々とした植物のニュアンスやスパイシーな個性がヒノキの木質感と重なり、自然の中で風が通り抜けるような、動きのある香りになります。甘さに頼らず、ヒノキの魅力を生かしながらタイムで新しい表情を引き出すことを目指しています。

一般的な「ヒノキの香り」との違い——清々しさに、木の温もりを重ねる

——一般的なヒノキの香りとの違いと、この香りで感じてほしいことを教えてください。

渡辺:一般的なヒノキの香りは、森林のフレッシュさや清々しさが特徴ですが、「HINOKI & THYME」では、ヒノキの温かみや落ち着き、木材そのものの質感にも注目しています。

木に囲まれた空間で感じる安らぎや、木肌に触れたときのような温もりを表現することを意識しました。そこにタイムのハーバルな清々しさを重ね、木質感を引き立てながら奥行きと個性を加えています。

忙しい日常から少し離れ、ふと深呼吸したくなる。そんな心地よい時間を届けたいと考えています。

2026年「アールグレイ&タイム」から、何が変わったか

——2026年の「アールグレイ&タイム」と2027年の「HINOKI & THYME」では、香りのトレンドがどのように変化したと捉えていますか。

渡辺:どちらもタイムを使いますが、組み合わせる素材で体験は大きく変わります。「アールグレイ&タイム」は、紅茶を思わせるベルガモットの明るさとタイムのハーバルな個性を組み合わせ、日常の中で香りそのものを楽しむことを提案しています。

一方「HINOKI & THYME」は、ヒノキの木質感や温かみを中心に据え、自然とのつながりや、香りに包まれて過ごす時間の心地よさに重点を置いています。

近年はウェルネスへの関心が高まり、落ち着いて過ごす時間を大切にする考え方が広がっています。紅茶を思わせるくつろぎから、木々に包まれるような安らぎへ。タイムという共通の軸を受け継ぎながら、2027年はヒノキの木質感と温もりを通じて、心地よく過ごす時間の新しい表現を提案しています。

白衣姿で香料を扱いながら調香する、渡辺武志のモノクロ写真

プロモツール香り技術研究所について

プロモツール香り技術研究所は、マスター調香師の渡辺武志、フレグランスアナリストの西野静恵、若手調香師の鈴木はるのなど、異なる専門性を持つメンバーが連携する研究開発拠点です。プロモツールは、JALの空港ラウンジ、客船「飛鳥Ⅲ」、グランドニッコー 東京台場などの香りブランディングを手がけてきました。こうした開発で培った知見を、研究所の香りづくりに活かしています。また、万博では、資生堂の空間における香りの演出も手がけました。

「HINOKI & THYME」の制作には、渡辺武志の指導のもと、若手調香師の鈴木はるのも調香補助として参加しました。調香師の感性と技術に、研究・分析の専門性を組み合わせ、若手の育成や調香AIの活用も進めながら、チームとして開発力を高めています。

「ホワイトティー&タイム」とウェスティンホテルの「White Tea」との違いや、「アールグレイ&タイム」が求められた理由は、以前の記事でも紹介しました。

新しい香調をホテルや企業の空間・商品に取り入れるには、香りの印象に加え、用途に応じた安全性や品質の確認が欠かせません。空間芳香、ルームスプレー、化粧品など、展開する製品によって確認すべき条件も異なります。(※用途によって香料の使える条件が変わる点については、コラム「ロビーの香りをそのまま商品にできない理由」でも詳しく解説しています。)

研究所では、調香師とフレグランスアナリストが連携し、人の嗅覚による官能評価と、ガスクロマトグラフィーによる成分分析を、香りの設計・品質確認に活かしています。さらに、用途に応じて使用する香料や配合に関する基準への適合を確認し、製品化につなげています。(※調香師とフレグランスアナリストによる安全性の確認体制については、コラム「「天然香料なら安全、合成香料なら危険」は本当か?」でも詳しく解説しています。)

2027年に向けた香りブランディングをご検討の方は、香りの設計・導入(プロモツール)へご相談ください。「HINOKI & THYME」をはじめ、施設のコンセプトに合わせた空間芳香から、滞在の記憶を持ち帰るルームスプレーやアメニティ・物販商品まで、一貫した香りの体験をご提案します。

この記事の関連タグ

あわせて読みたい