ロビーの香りをそのまま商品にできない理由

高級ホテルのロビーで心地よく感じる香りを、そのままリードディフューザーやアロマスプレー、ハンドクリームに入れれば、同じ体験を届けられる。そう考えたくなりますが、実際には、そのまま使えるとは限りません。まず確認しなければならないのが、「その香料が、つくりたい商品の用途と配合量で、安全性の基準に適合するかどうか」です。

特に重要なのが、香料業界の国際的な自主基準であるIFRAスタンダードです。芳香器のカートリッジとして使える香料でも、リードディフューザーや、肌に直接使うハンドクリームなどに同じ条件で使えるとは限りません。用途によって使用できる配合量が変わり、香料の処方から見直す必要が生じることもあります。

さらに、商品化すると、嗅ぐ距離、時間、香りを溶かす相手も変わります。この記事では、香りブランディングを館外へ広げたい高級ホテルの方に向けて、空間の香りをそのまま商品にできない理由と、安全性の基準への適合と『同じ香り』の印象を両立するための工夫を紹介します。

理由1:用途によってIFRAスタンダードへの適合条件が変わる

空間の香りを商品に展開する際、最初に確認すべき重要な条件が、IFRAスタンダードへの適合です。IFRAスタンダードでは、肌に触れるかどうかだけでなく、製品の使い方や身体への接触の仕方などによって用途が区分され、香料成分の使用が制限されています。

そのため、芳香器のカートリッジとしての適合確認だけでは、リードディフューザーやアロマスプレー、ハンドクリームへの適合を判断できません。つくりたい商品の用途に応じて、その香料をどれだけ配合できるかを改めて確認する必要があります。

使用可能な配合量では十分な香りが出せない場合、単に薄めるだけでは、ホテルを象徴する香りの印象が失われてしまいます。制限対象となる成分を見直し、香りの印象を保ちながら処方を組み直す技術が求められるのです。

日本香料工業会は、会員が香粧品香料を開発・製造する際に、IFRAスタンダードを遵守するよう義務づけています。プロモツールは、空間フレグランス業界唯一のその会員として、用途ごとの適合確認を前提に香料の開発・製造に取り組んでいます。

なお、ハンドクリームやハンドソープ、シャンプーなどの化粧品では、IFRAへの適合に加え、薬機法など関係法令への対応も必要になります。

天然100%でも、成分の確認は必要

「天然精油だけを使っているから、そのまま商品にできる」とも限りません。天然精油は多くの成分からなる混合物であり、その中にはIFRAスタンダードの制限対象となる成分も含まれています。精油そのものへの制限と、含有成分に由来する制限の両方を確認する必要があります。

大切なのは、天然か合成かという説明だけでなく、どの成分がどれだけ含まれ、つくりたい商品にどの程度配合できるのかを把握することです。そのためには、供給元の成分資料を確認し、必要に応じてGC-MSなどによる分析を行うことが重要になります。(※天然香料と合成香料の安全性の考え方については、コラム「「天然香料なら安全、合成香料なら危険」は本当か?」でも詳しく解説しています。)

空間で心地よく香ることと、さまざまな商品への適合を確認できることは、それぞれ異なる専門性なのです。

理由2:嗅ぐ距離と量が違う

ロビーでは、業務用のディフューザーが香りを空間に広げ、お客様は空気で薄まった香りを、歩きながら、あるいは座りながら感じます。アロマ空間デザインでは、空間の広さや天井の高さ、人の動きに合わせて、香りが強すぎず弱すぎない状態をつくります。(※空間に合わせて香りを設計する考え方については、コラム「アロマ空間デザインとは?仕組み・効果・導入方法・費用までプロが徹底解説」でも詳しく解説しています。)

一方、アロマスプレーやハンドクリームなどは、手元や身体の近くで香りを感じます。空間では心地よかった香りも、手元で感じると一部の香りが目立ち、強すぎると感じることがあります。ロビーで感じていたのは香料そのものではなく、空間全体で整えられた香りの印象だということです。

落ち着いた照明の高級ホテルのロビーで、空間全体に香りが広がるイメージ

理由3:時間の流れ方が違う

空間では、機器が一定の量を出し続けるため、お客様が感じる香りの印象はほぼ安定しています。商品では、使った直後に立つ香り、しばらくして残る香り、最後の余韻と、時間とともに印象が変わります。

さらに、商品は開封してから使い切るまで、数週間から数か月、客室や家庭に置かれます。光や温度による変化も含めて、保管中に香りがどう変わるかを確かめておく必要があります。

理由4:香りを溶かす相手が違う

商品にするときは、香料を何に溶かすかも変わります。香料は水に溶けにくいため、水を多く含むルームスプレーでは、アルコールなどを使って香料をなじませる工夫が要ります。ハンドソープやシャンプーでは、洗浄成分や油分が香料と一緒に入り、香りの立ち方が変わります。

同じ香料を同じ量入れても、何に溶かすかで鼻に届く香りのバランスは変わります。そのため、商品ごとに配合を見直すことになります。(※基剤によって香り立ちが変わる点については、コラム「同じ香りを、香水・クリーム・シャンプーへ。プロモツール香り技術研究所が考える香りの比較評価」でも詳しく解説しています。)

クリームや液体の試作品が並ぶ、商品ごとに香りを調整する開発のイメージ

調香師は「同じ香り」をどう保つのか

用途ごとのIFRAスタンダードに適合させるため、香料の配合量や処方を変更しなければならない場合があります。そのときに目指すのは、配合を同じにすることではなく、用途への適合を確保しながら、「このホテルの香りだ」と感じてもらえる印象を残すことです。

調香師はまず、その香りの中で何を残したいかを決めます。たとえば、柑橘の明るさなのか、木の香りの落ち着きなのか。そのうえで商品ごとに配合を調整し、ロビーの香りと並べて比べながら、印象が重なるかを確かめます。

成分分析は、香りの品質管理に加え、用途への適合を確認するための重要な手がかりにもなります。原料の成分資料や、必要に応じたGC-MSなどによる分析結果をもとに、制限対象成分の含有量を把握し、商品への配合量を踏まえてIFRAスタンダードへの適合を確認します。

一方、分析の数値だけで香りの同一性は判断できません。調香師による官能評価も組み合わせ、必要な処方変更を行っても、ホテルを象徴する香りの印象が保たれているかを確かめます。成分を把握する分析力と、香りを整える調香力の両方が必要なのです。

ロビーの香りを、商品としても心地よく

ロビーの香りを商品にするとき、最初に確認すべきなのは、その香料が商品の用途と配合量でIFRAスタンダードに適合するかどうかです。そのうえで、嗅ぐ距離、時間、香りを溶かす相手の違いに対応し、香りの印象を整えていきます。

だからこそ、依頼先には、空間を香らせる経験に加え、香料の成分を把握し、用途ごとの適合を確認しながら、商品に合わせて処方を調整できる体制が求められます。

プロモツールは、JALの空港ラウンジ、客船「飛鳥Ⅲ」、グランドニッコー東京 台場などの香りブランディングを手がけてきました。アロマ空間デザインで空間の香りを設計する経験と、その香りを館内販売の香りグッズに展開する経験の両方があります。資生堂やコーセーといった化粧品メーカーでの採用実績もあります。

プロモツールでは、日本を代表する調香師・渡辺武志が率いる香り技術研究所の調香師陣、成分分析を担うフレグランスアナリストの西野静恵、コーセーで商品開発GMを務めた首席研究員の横山弘が連携しています。調香・成分分析・商品開発の専門性を結集し、用途への適合と、ホテルを象徴する香りの再現を両立します。

ロビーの香りを商品にしたいと考えている方は、使っている香りと、展開したい商品を添えて、香りグッズOEM・化粧品OEM(プロモツール)へご相談ください。

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