元コーセー商品開発部GMと日本を代表する調香師が語る「化粧品で採用される香り、落ちる香り」

試作の香りを社内で試したとき、誰もが「良い香りだ」と口をそろえたのに、商品化の段階で見送られてしまうことがあります。その一方で、第一印象は控えめでも、最終的に採用される香りもあります。「ブランドのイメージに合わない」「基剤に配合すると印象が変わる」「社内で評価が分かれ、試作を繰り返している」。こうした悩みは、化粧品の香り開発で生じやすい課題です。では、採用される香りと見送られる香りを分ける違いは、いったい何なのでしょうか。

この問いについて、プロモツール香り技術研究所の二人がこれまでのインタビューで語ってきた言葉をもとに、編集部で整理しました。

一人は、元コーセー商品開発部GMで、現在は同研究所のエグゼクティブフェロー(首席研究員)を務める横山弘。もう一人は、化粧品や空間の香りの開発を手がけ、日本を代表する調香師であり、同研究所の所長・マスター調香師を務める渡辺武志です。商品開発と調香という異なる視点から見えてくる、高級化粧品の香りで差別化を図るためのポイントをご紹介します。

落ちる香り1:香り単体の完成度だけで評価されている

採用されない香りでよく見られるのが、香りそのものとしての完成度は高いものの、製品やブランドとの関係性まで考えられていないケースです。

横山は「『香りが良い』だけでは商品として成立しない場合もあります」と語っています。誰が、どのような場面で使い、どんな価値を感じるのか。そこまで設計して初めて、ブランドに選ばれる商品になるという考えです。(※横山の商品開発の考え方については、インタビュー「なぜ香りは「良い香り」だけでは売れないのか」でも詳しく紹介しています。)

渡辺も、仕上がった香りが「良い香りだけれどブランドに合わない」と判断される場面があると話しています。その判断基準は香りの完成度ではなく、「コンセプトとの一致」です。軽やかさが求められるブランドに重厚な香りを提案してしまえば、いくら香りとして優れていてもズレが生じてしまいます。香りを生かしたブランディングでは、ブランドらしさを表現できているかどうかが最初の関門になります。

そのため、試作に入る前に「誰に使ってほしいか」「使用時にどのような印象を届けたいか」「既存の商品とどのような共通点や違いを持たせたいか」を整理することが重要です。こうした判断軸を共有しておくことで、個人の好みだけに左右されず、ブランドにふさわしい香りを検討しやすくなります。

ブランドの世界観を表す、香りの製品ボトルのイメージ

落ちる香り2:剤型や処方との相性が見えていない

二つ目は、製品の中で香りがどう振る舞うかが確かめられていないケースです。

横山は、化粧品の香りはベース(基剤)と一緒に肌にのせて楽しむものだと説明しています。油性成分が多い製品では、香料がなじみやすい反面、香りの立ち上がりが弱くなることがあります。また、ベースの原料が時間や熱で変化して香りを損なってしまったり、pHの傾きによって香料の成分が変わってしまったりすることもあります。

こうした変化は、試香紙の上だけではわかりません。試香紙では狙いどおりでも、クリームやヘアオイルなどの基剤に配合すると、香りの強さや印象が変わることがあります。香料単体の評価に加え、実際の基剤に配合し、使用時の香り立ちや時間経過による変化を確認することが重要です。横山は、長期・短期の安定性試験で香りの変化を確かめ、酸化防止剤などによる変臭対策を検討するといった「見えない調整」の積み重ねこそが、長く愛用される商品の品質を支えていると述べています。

落ちる香り3:使われる環境の違いを想定していない

渡辺は、フランスの調香教育機関ISIPCAでの研修を通じて、同じ香りでも置かれる環境によって印象が大きく変わると実感したと話しています。日本では甘さや重さを強く感じやすいアンバーやバニラが、現地ではとても自然になじんで感じられたそうです。(※ISIPCAでの研修については、インタビュー「フランスISIPCA研修で得たもの」でも詳しく紹介しています。)

海外で評価されている香りを、そのまま日本に持ち込めばよいというわけではありません。使う国や気候、生活の場面まで想定できていない香りは、狙いどおりの魅力が届かない可能性があります。

これは海外向けの商品に限った話ではありません。仕事中に使うハンドクリームと、就寝前に使うボディケア製品では、求められる香りの強さや残り方が異なります。他の化粧品や香水との重なりも含め、実際に使われる場面を想定することが大切です。

採用される香りに共通する3つの条件

では、採用される香りにはどのような共通点があるのでしょうか。一般的な開発の流れでは、香りのイメージを決めてから試作に入りますが、二人の話からは、その前後で押さえておきたい3つの条件が見えてきます。

一つ目は、使用シーンから逆算して設計されていることです。横山は前職の大手化粧品会社で、ハンドクリームのお客様調査を自ら行い、家事、仕事中、就寝前という3つの使用シーンを見いだしました。そして、シーンごとに剤型と機能を考え分けたと振り返っています。

二つ目は、抽象的な言葉が香りの構造に翻訳されていることです。渡辺は「上品」といった要望をそのまま香りに落とし込むのではなく、明度、透明感、拡散性、残香の質といった「感覚のレイヤー」に分解すると語っています。言語から感覚へ、感覚から構造へ、構造から原料へと順を追って進めることで、意図した印象を再現できる処方にたどり着きます。(※渡辺の香りの設計思想については、インタビュー「プロモツールの調香師・渡辺武志が語る香りの設計思想と次世代育成」でも詳しく紹介しています。)

三つ目は、なぜその原料と配合にしたのかを説明できることです。渡辺はISIPCAでの訓練を経て、原料を選んだ理由やバランスの根拠を、より意識して整理するようになったと話しています。理由をきちんと説明できる香りであれば、ブランドコンセプトとの関係や設計意図を社内で共有しやすくなり、採用判断の材料になります。品質保証や安全性の確認については、これとは別に、必要な資料や評価結果をそろえることが重要です。

香料ボトルと試香紙、柑橘やスパイスを使った調香のイメージ

商品開発と調香が一体になる体制

プロモツールでは、調香師が香りを設計するだけでなく、商品開発の視点から剤型や処方との相性まで検討します。ブランドが求める印象を整理し、香りの設計と基剤との相性の検討をつなげることで、商品化を見据えた開発を支援します。さらに、ガスクロマトグラフィーによる成分分析を担うフレグランスアナリストが加わり、感性による評価と成分分析を組み合わせて、香りの品質を検討します。

渡辺が、これまで手がけた香りには、資生堂やコーセーといった化粧品メーカーでの採用実績があり、JALやJRタワーホテル日航札幌などの空間の香りも手がけています。一流企業の厳しい基準に応えてきた経験は、香りの完成度と商品としての裏付けを両立させるうえでの確かな土台になっています。

選ばれる香りを、商品として届けるために

採用される香りと落ちる香りの違いは、単に香りが良いかどうかではなく、使う人や製品、置かれる環境まで含めて設計されているかどうかにあります。高級化粧品のように基準の厳しい分野では、その差がよりはっきりと表れます。そして、使用シーンまで緻密に設計された香りこそが、ブランド体験を支え、競合との差別化につながります。

「ブランドらしい香りを具体化したい」「基剤に配合したときの香りに課題がある」「社内評価がまとまらず、試作が進まない」。こうした化粧品の香り開発のお悩みは、ぜひ化粧品OEM・香りOEM(プロモツール)へご相談ください。想定している製品や使用シーン、現在困っていることを、わかる範囲でお知らせください。商品開発と調香の両面から、課題の整理と香りの設計をお手伝いします。

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