【インタビュー】なぜ香りは「良い香り」だけでは売れないのか。〜元コーセー商品開発部GMが語る、香りを「商品として成立させる」設計思想〜

香りを実際の商品として成立させるには、優れた調香技術だけでは十分ではありません。製品の使用シーンや機能性、品質、安全性まで見据えた「商品設計」があって初めて、香りは価値ある商品になります。今回は、元コーセー商品開発部GMとして数多くの商品開発を手掛け、現在はプロモツールで商品開発を率いるプロモツール香り技術研究所の横山所長に、その設計思想を聞きました。

香りの商品開発とは何か


——「香りの商品開発」とは、どのようなことを指すのでしょうか。

横山:お客様が使う商品を作り込むためには、使い心地を満足させる香りだけでは不十分です。その製品を使うお客様の目的や使用シーン、使用感、機能、使用性などを想定しながら製品を考えていきます。

プロモツールには日本一の調香師と評される渡辺武志が率いる調香チームがあり、高品質な香りを開発できます。しかし、それだけでは商品にはなりません。香り以外の原料や剤型との相性まで考え、香りを最大限に生かす商品へと設計することが重要です。その香りとベース、つまり香り以外の原料や剤型とのマッチングを図り、香りを生かした製品を仕上げることができます。

元コーセーでの経験が活きる


——大手化粧品会社での経験は、現在の商品開発にどう活きていますか。

横山:ハンドクリームのお客様調査を自分で行った経験があります。その結果、3つの使用シーンがわかりました。

1つ目は、食器や鍋を洗う手を守るための耐水性ハンドクリーム(主婦向け)です。

2つ目は、仕事中にPCを扱うときに香りを楽しむハンドクリーム(OL向け)。

3つ目は、就寝時に手に潤いを満たしながら香りでリラックスして眠るハンドクリーム(幅広い層向け)。

それぞれの剤型や機能は異なります。1つ目は耐水性のあるシリコーンや油剤を配合した乳化系のチューブ入り製品。2つ目は軽い感触で香りを中心とした乳化系のチューブ入り製品。3つ目は潤い効果に優れた香り付きのクリームタイプの製品です。

このような分析を踏まえ、目標を「使いやすく、潤いを高く保持でき、耐水性の高いベース」に据えました。高い潤いを保ちながら水にも強い油剤主体のクリームタイプを採用し、固いワックスを避けて特殊なゲル化剤で緩やかに結合させることで滑らかな使用感を実現しました。前職でメイク製品の処方開発で得た知識が、スキンケア商品にも生かされています。こうした考え方は現在のプロモツールの商品開発にも受け継がれ、OEM製品やオリジナル商品の設計に活かされています。

天然香料の選択と商品化への工夫


——今回の製品シリーズ(現在販売している『ホワイトティー&タイム』シリーズについて)では、香り原料の選択でどのような点にこだわりましたか。

横山:香りの原料は、合成香料と天然香料に大別されます。今回の製品シリーズでは、調香師が天然香料だけにこだわって香りを作りました。天然香料ならではの深みや複雑さを生かした素晴らしい香料です。

一方、天然香料は多様な原料が含まれており、個々の安定性やマッチングは様々です。そのため、化粧品ベースに配合する際には、香りを生かすことと、香り自体の安定性の両方に気を配りました。製造時の天然香料の入れ方や温度にも気を使いました。香りそのものの品質だけでなく、製造工程や長期保存まで見据えて設計することが、商品としての品質につながります。

商品設計の舞台裏


——具体的な商品設計の工夫を教えてください。

横山:油剤を多く含むハンドクリームやボディオイルでは、油剤原料が感触や効果に大きく関わってきます。今回使用したホホバ油は、珍しい液状のワックスです。

液状なので肌に滑らかに伸び、肌が持つワックスエステルとの馴染みも優れています。角層にすっと入り込み、べたつかないのに肌を柔らかくするエモリエント効果も高いです。また酸化されにくく、香料やベースの酸化防止にも役立ちます。

ヘアオイルにも使用しており、髪の表面を保護するキューティクルとの相性も良いため、髪にツヤを与え、乾燥による広がりを抑えます。

一方、乳化製品であるハンドソープは洗い心地が最も重要です。界面活性剤を多く含む洗浄製品は、洗浄効果は優れていますが、界面活性剤が肌に少し残りやすい欠点があります。肌に残ることで仕上がりの手触りがぬるっとしてしまうのです。

このシリーズのハンドソープは、その欠点を少なくした液状石鹸を主体としています。洗浄性も保ちながら、洗い上がりはさっぱりとした仕上がりになるよう設計しました。

プロモツールでは、このように香り・処方・使用感を一体で設計することで、ブランドの世界観を損なわない商品開発を目指しています。

香りと処方を一体で設計する化粧品開発ラボのイメージ

商品化の「見えない調整」


——香りを商品にするうえで、見えない調整はどのようなものですか。

横山:化粧品では、フレグランスのように香りを散布する商品以外は、香りをベースと共に肌につけて楽しみます。つまり、香料とベース原料や剤型とのマッチングを検討することが非常に重要です。

ベース原料には、経時や熱で変化するものもあり、製品の香りを損なう可能性があります。製剤系では、pHがアルカリ性や酸性に傾いていると、香料に含まれる原料を変化させてしまうこともあります。そのような物質や剤型とのマッチングを検討し、確認する必要があります。

具体的には、長期・短期での安定性試験での香り変化の確認や、酸化防止剤などによる変臭防止の検討が必要となります。このような見えない部分の積み重ねが、長く愛用される商品の品質を支えています。

香りと機能の両立


——香りと機能性を両立させるうえで、どこに気をつけていますか。

横山:商品の目的や効果、使用性をしっかり把握してから開発を進めることが大切です。「香りが良い」だけでは商品として成立しない場合もあります。誰が、どのような場面で使い、どのような価値を感じるのかまで設計して初めて、ブランドに選ばれる商品になります。

化粧品成分は、水に溶け易い水性成分か、水に溶け難い油性成分かに分けることができます。フレグランスや化粧品に使われる香料は、油性成分になります。そのため、ヘアオイルやボディオイル、ハンドクリームなど油性成分だけでできた製品は、香料との馴染みがよく配合しやすいのですが、香り成分が油性成分に馴染みすぎて香りの立ち上がりが弱くなったり、油性成分の香りの影響を受けてしまうことがあります。

まず油性成分の特徴を把握して機能性と香料との相性を見極め、原料を選択していきます。化粧品ベースの成分や配合量が決まったら、慎重に香料の配合量を定めていきます。

また、香料を水系に分散する必要のあるヘアフレグランスやハンドソープでは、香料を分散するための界面活性剤の質と量を検討します。界面活性剤は、化粧品ベースの安定性や使用感に影響しないよう、なるべく少ない量で分散効果のある原料を選択します。

プロモツールが目指すもの


——プロモツールの香り事業は、今後どのように広がっていくと考えていますか。

横山:化粧品で香りが中心となる製品は、日本ではフレグランスやヘア製品が一般的です。今回の製品群だけでなく、もっと香りが主体となってもよい、あるいは今まで香りを使うことが考えられなかった製品などを検討したいと思います。

他にない製品で、興味から買っていただけるような商品を考えてみたいです。化粧品は医薬品とは異なり、効能効果表現が限定的です。しかし、香りや油剤、保湿剤、洗浄剤などの効果ではっきりと肌や髪の変化を感じることができます。

香り成分や他の成分の組み合わせは無限であり、それらから生まれてくる製品も無限の可能性を持っています。

例えばプロモツールでは、香り成分であるα-ピネンを配合し、ウェルビーイング——心身の健康や幸福——に関わる研究を進めております。今後は、こうした先進的な研究成果と、多様な原料や成分の特性を融合させ、これまでにない新しい領域の製品開発に挑戦していきたいと考えております。

プロモツールでは、調香師だけでなく商品開発、品質保証、製造までが一体となり、お客様のブランド価値を高める製品づくりに取り組んでいます。香りをつくる会社ではなく、「香りを商品として成立させる会社」として、これからも新しい価値を生み出してまいります。

香りを商品として仕上げる開発現場のイメージ

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担当:営業部 松岡

執筆者のご紹介

山尾 陽飛

yamao haruto

プロモツール株式会社 マーケティング部インターン 京都大学 総合人間学部…

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