調香師は最初のヒアリングで何を聞くのか?日本を代表する調香師・渡辺武志の設計思想から考える10の質問

調香師への初回相談で「上品な香りをつくりたい」と伝えたとします。そのとき、自分の頭の中にあるイメージが、相手にも同じように届いているでしょうか。香りの専門用語がなくても、誰に、何を、どんな場面で届けるかは整理できます。

プロモツールの香り技術研究所 副所長/シニア調香師・渡辺武志が香りづくりで重視しているのが、「誰に届けるのか」「ブランドとして何を表現するのか」「最終的にどのような製品として使われるのか」という視点です。その考え方を踏まえ、編集部が初回相談に役立つ10の質問を整理しました。

渡辺は、たとえば「上品」という曖昧な要望も、明度、透明感、拡散性、残香の質などに分解し、香りの構成や原料選択へと落とし込んでいきます。

香りの相談は、好みを開発条件に変えるところから

同じ「上品」でも、軽く透明感のある印象を思い浮かべる人もいれば、落ち着いた深みを求める人もいます。担当者同士でイメージが異なり、試作品の評価がすれ違うことも、香りづくりの課題です。

初回ヒアリングから試作へ進む流れの中で、要望の背景を言葉にし、試作品を比べるための共通の基準をつくります。以下は決まった順番で答えるための台本ではありません。まだ決めていない項目も含めて、調香師と話し合うための入口です。

調香師の役割のひとつは、こうした曖昧なイメージや感覚を読み解き、具体的な香りの設計条件へと翻訳することです。

ブランドと使う人を知るための質問

1.この香りを、誰に届けたいですか?

年齢や性別だけでなく、使う人の暮らしも考えます。自宅用か特別な贈り物かなど、利用場面を整理します。購入者と使用者が異なる場合もあります。香りを届けたい相手のイメージを関係者でそろえましょう。

2.使った人に、どんな印象を持ってほしいですか?

「爽やか」「高級感がある」といった言葉に、理由を添えてみてください。たとえば「朝の身支度に合う軽やかさを表現したい」と伝える方法があります。機能や効能を約束する表現と、香りで目指す印象は分けて整理し、届けたいブランド体験を共有します。

3.ブランドらしさを、香り以外で表すと何ですか?

パッケージの色、写真、素材感、ブランドの成り立ちなども、香りを設計する重要な手掛かりになります。言葉だけでは説明しにくい場合は、イメージに近い写真やデザインなどの資料を持ち寄ってみましょう。調香師は、そこに共通する色彩、質感、温度感、空気感などを読み取り、ブランドの世界観を香りとしてどう表現するかを考えていきます。

香料のボトルと試香紙、柑橘やスパイスを並べた香りづくりのイメージ

香りの輪郭と、使われる場面を知る質問

4.参考にしたい香りと、近づけたくない香りはありますか?

参考品があれば、「最初の軽さが好き」「後に残る甘さは控えたい」と、部分ごとに感想を添えます。参考品は完成形をそのまま指定するためのものではありません。「どこに魅力を感じるのか」を調香師と共有するための手掛かりです。好きな要素と避けたい要素を整理しながら、そのブランドならではの香りへと発展させていきます。

5.香りを使う最終製品は、何ですか?

シャンプー、クリーム、香水、空間用ディフューザーでは、使い方も処方も異なります。製品形態とともに、基剤や容器が決まっているかを伝えましょう。複数の商品へ展開する構想がある場合も、最初から共有しておくと、製品ごとの検討事項を整理できます。

6.どの場面で、どのくらい香ってほしいですか?

容器を開けた瞬間の印象を重視するのか、使用後にほのかに残したいのかを考えます。香りの強さは、評価する場面とセットで伝えると具体的になります。シャンプーなら使用中と乾燥後、空間なら人との距離や滞在時間などを話し合うとよいでしょう。

7.使う環境や、一緒に使うものはありますか?

浴室、寝室、店舗などの環境や、他の香り製品との併用も確認したい情報です。単品で気に入った香りが、実際の使い方でも狙いに合うかを検討します。すべてを初回で確定させる必要はありませんが、評価時に再現したい場面を思い描いておきましょう。

香りを商品として成立させるための質問

8.安全性や原料について、守りたい条件はありますか?

販売する国・地域、原料の方針、使用を避けたい成分など、社内で決まっている条件を共有します。希望する原料がある場合も、その名前だけで判断せず、用途や配合条件とあわせて相談します。香りは感性だけでなく、最終製品として求められる安全性や品質を満たすことも重要です。必要に応じてガスクロマトグラフィーなどによる成分確認を行い、用途に応じた安全性の評価をどのように進めるかも検討します。

香料サンプルと試香紙、成分分析をイメージした作業風景

9.予算・数量・発売時期は、どこまで決まっていますか?

確定値がなくても、希望する範囲と優先順位を伝えます。限定販売で反応を見たいのか、継続的な供給を想定するのかによって、相談したい内容も変わります。試作や評価に使える時間も含めて、実現可能な進め方を開発側とすり合わせましょう。

10.誰が、何を基準に香りを決めますか?

評価に参加する人と、最終的に決める人を明確にします。「好きかどうか」に加え、ブランドの印象に合うか、狙った場面で香るかを共通の項目にすると、修正理由を共有しやすくなります。迷ったときに立ち戻れる基準をつくることも、初回相談の大切な役割です。

調香師との対話から、ブランドらしい香りをつくる

初回ヒアリングで大切なのは、専門用語で正解を伝えることではありません。誰に、どんな場面で、どのような印象を届けたいのかを共有することです。10の質問を手掛かりに、まだ決まっていないことも含めて話すことが、ブランド体験を香りで表現する出発点になります。

プロモツールでは、日本を代表する調香師である渡辺武志をはじめとする専属調香師が、ブランドの世界観に合わせて香りを設計しています。渡辺氏は、JALエグゼクティブラウンジや飛鳥Ⅲなど、数々の創香プロジェクトを手がけてきました。

また、香り技術研究所では、ガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC-MS)を用いて香料成分の分析・管理を行っています。調香師の感性と経験に科学的な分析・評価を組み合わせることが、プロモツールの香りづくりの特徴です。

JALをはじめとする企業や、グランドニッコー東京 台場など、企業・ホテル・施設での創香・採用実績を重ねながら、多様なブランドの想いを具体的な香りへとつなげています。

プロモツールの香りづくりに関するご相談

プロモツールでは、ホテルや商業施設の空間演出から、企業・ブランドのオリジナルアロマ、香水、アロマスプレーなどの香り製品まで、目的や使用環境に応じた香りを設計しています。

ブランドの世界観を香りで表現したい企業・施設のご担当者様は、プロモツールまでご相談ください。

香りに関する様々な知見を発信しております調香師のアトリエもご覧ください。

渡辺武志(わたなべ・たけし)

プロモツール株式会社 香り技術研究所 所長/マスター調香師。

世界最高の調香師教育機関であるISIPCA (France) SUMMER SCHOOL “ADVANCED PERFUMERY COMPOSITION” 修了。調香師養成機関を卒業後、プロモツールに入社。JALエグゼクティブラウンジ、飛鳥Ⅲ、万平ホテル、JRタワーホテル日航札幌、外資系ラグジュアリーブランドなど、数々の空間の香りによるブランディングを手がけている。

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