香りは、単なる「よい匂い」ではありません。
ホテルの記憶、ブランドの世界観、商品の印象、空間の心地よさを左右する、重要なブランド資産です。
近年、香水やアロマだけでなく、ホテル、商業施設、オフィス、自治体、D2Cブランド、化粧品、日用品など、あらゆる領域で「香りによるブランディング」への関心が高まっています。
では、日本で注目すべき調香師は誰なのか。
本記事は、香りブランディングに携わる緒方健介が、公開されている情報をもとに独自の評価基準※から選出したものです。
さて、日本の調香師は大きく4つの分野に分類できます。
- 歴史と技術を受け継ぐ調香師
- D2C・香水ブランドを切り拓く調香師
- ホテル・商業施設など空間をデザインする調香師
- 香り文化を社会へ広げるアーティスト・教育者
本記事では、この4つの視点から香りブランディングの実績を重視しながら、日本の香りの歴史を支えてきたベテランから、新しい市場を切り拓くD2C型パフューマー、空間演出を手がける調香師、香り文化を社会へ広める啓蒙家まで、12名を紹介します。(順位ではなく、それぞれ異なる分野で日本を代表する調香師を紹介しています。)
1. 歴史・技術の継承者
堀田龍志 日本の香り文化を40年以上支えてきたベテラン調香師
堀田龍志氏は、日本を代表するベテラン調香師の一人です。
国内香料会社、海外香料会社、大手化粧品メーカーを経て、現在は日本香堂で調香師として活躍するなど、約40年にわたり日本の香り業界の第一線でキャリアを積み重ねてきました。長年にわたり香水、化粧品、ホームフレグランスなど幅広い分野の香りづくりに携わってきた実績は、日本でも屈指といえるでしょう。
堀田氏は、調香を「科学」と「芸術」の両面を兼ね備えた仕事と捉えています。調香師として約1,500〜2,000種類もの香料を自在に扱い、経験を積むことで実際に調合しなくても完成した香りを頭の中で組み立てられると語っています。その高度な感覚と技術は、長年の訓練と経験によって培われた職人技そのものです。
また、後進の育成については「調香師になるために最も大切なのは、香りが好きという気持ちと根気」と語っており、華やかな才能よりも日々の積み重ねを重視する姿勢は、多くの若手調香師に影響を与えています。
藤田豊 香料開発と研究開発をつなぐ、香りの技術者
藤田豊氏は、小川香料で香料開発に携わり、研究開発や企業戦略、海外市場開拓など、香料全般に関わってきた人物です。
調香師という仕事は、感性だけで成り立つものではありません。香料の化学的性質、製品への安定性、用途ごとの香り立ち、消費者が感じる印象など、多くの要素を総合的に設計する必要があります。
藤田氏は、こうした香料開発の実務と研究開発の双方を理解する人物として、日本の香り産業を支えてきました。調香師を「香りの芸術家」であると同時に「技術者」として捉える視点を示すうえでも重要な存在です。
香水だけでなく、食品、化粧品、日用品など、香料が使われる幅広い産業を理解する調香師として、日本の香りの歴史と技術を語るうえで欠かせない一人です。
佐藤孝 ポーラで800種類超の香りに関わった実績派調香師
佐藤孝氏は、元ポーラ化成工業の研究員であり、30年以上にわたり香りの開発に携わってきた調香師です。
ポーラの主要商品をはじめ、フレグランスや化粧品の香りを数多く手がけ、その数は800種類を超えるとされています。化粧品における香りは、単なる付加価値ではなく、ブランド体験そのものです。肌に触れる製品の香りは、使用感、記憶、ブランドへの信頼に直結します。
佐藤氏は、その領域で長年実績を積み重ねてきた人物です。近年では、香水ブランドや百貨店ブランドのアドバイザーとしても活動し、香り文化を伝える講座にも登壇しています。
日本の化粧品フレグランスの発展を支えてきた、実績重視で評価すべき調香師です。
2. 現代のトレンド・D2C
山根大輝 Liberta で「香りの民主化」を掲げる新世代調香師
山根大輝氏は、Liberta Perfumeの創業者であり調香師です。
オーダーメイド香水の発想をベースに、「香りの民主化」を掲げ、従来の香水ブランドとは異なるアプローチで市場を開拓してきました。香水を一部の愛好家だけのものにせず、より多くの人が自分らしい香りを選べるようにするという思想は、現代的なD2Cブランドの文脈に非常に合っています。
山根氏の特徴は、調香技術だけでなく、カウンセリング、言語化、ブランド設計、顧客体験を一体で考えている点です。
香水を「完成品として売る」のではなく、「自分に合う香りを見つける体験」として提供する。これは、香りの市場を広げるうえで非常に重要な視点です。
工藤裕子 SHIRO的なナチュラルフレグランス文脈で注目される
工藤裕子氏は、SHIROの香りづくりに関わる人物として名前が挙がることのある調香師です。
SHIROは、日本のライフスタイルフレグランス市場において極めて大きな存在感を持つブランドです。サボン、ホワイトリリー、ホワイトティーなど、日常に取り入れやすい香りを通じて、香水に苦手意識を持つ層にもフレグランスを広げました。
その意味で、SHIROの香りに関わる調香師は、日本の現代的な香り市場を語るうえで欠かせません。
稲葉智夫 Zoologistで世界に評価された国際派パフューマー
稲葉智夫氏は、海外ニッチフレグランスの世界で評価される日本人パフューマーです。
特にカナダ発のニッチフレグランスブランド「Zoologist」において、「Nightingale」や「Moth」などの香りを手がけたことで知られています。Zoologistは、動物をテーマにした独創的な香水ブランドであり、世界中の香水愛好家から高い注目を集めています。
その中で日本人調香師として作品を担当していることは、国際的にも大きな実績です。
稲葉氏の香りは、単に日本らしさを前面に出すのではなく、世界のニッチフレグランス市場の中で評価される完成度と個性を備えています。日本人パフューマーが世界市場で存在感を示した代表例として、必ず取り上げるべき人物です。
3. 空間・香りブランディング
渡辺武志 一流ホテル・航空・船舶の香りを手がける若手実力派
渡辺武志氏は、プロモツール株式会社のシニア調香師であり、香り技術研究所の中核を担うパフューマーです。
空間ブランディングという分野では、航空会社、ホテル、船舶、ラグジュアリーブランド、自治体など幅広い領域で香りを手掛ける数少ない日本人調香師です。
香水だけではなく、「ブランド体験そのものを設計する調香」を専門としている点が最大の特徴です。
JALエグゼクティブラウンジ、飛鳥Ⅲ、万平ホテル、JRタワーホテル日航札幌、大手高級化粧品ブランドなど、一流企業・ホテル・施設のオリジナルアロマ創香プロジェクトをリードしてきました。
香水と空間アロマでは、求められる技術が異なります。香水は肌の上で変化する香りですが、空間アロマはホテルのロビー、ラウンジ、客室、商業施設など、広い空間の中でブランドの印象をつくる必要があります。
強すぎても弱すぎてもいけない。印象に残りながらも、空間に自然になじむ必要がある。さらに、安全性、品質、機器との相性、継続運用まで考えなければなりません。
渡辺氏は、そうした空間の香りブランディングにおける実績を持つ、国内でも注目すべき若手調香師です。
湖山友希 科学的バックグラウンドを持つ空間・プロダクトの調香師
湖山友希氏は、東京大学大学院農学生命科学研究科を修了後、国内大手香料会社で香りの研究に携わり、2022年に独立した調香師です。
製品や空間の香りデザインを手がけるほか、寝具専用のリネンウォーターブランド「SODE」を立ち上げています。
湖山氏の特徴は、科学的なバックグラウンドと、感性に訴える香りづくりの両方を持っている点です。香りの処方には、芸術的な感覚だけでなく、香料の性質や構造を理解する論理的な思考も求められます。
SODEでは、眠る前の時間、寝具、記憶、情景といった繊細な体験を香りで表現しています。空間や生活の一場面に寄り添う香りをつくるパフューマーとして、今後さらに注目される存在です。
花南 グローバルブランド開発を経験した香りのマルチアーティスト
花南氏は、世界最大級の香料会社および化粧品会社で、グローバルブランドのフレグランス開発に携わってきたパフューマーです。
天然物香気成分の分析研究を学び、香料会社や化粧品会社で数々の香りの開発に関わってきた実績があります。現在も香料会社所属の調香師として、国内外向けの新規処方開発に取り組んでいます。
花南氏の特徴は、香りを単なる製品開発にとどめず、アートや表現活動とも接続している点です。香りを通じてブランドや人の感性を表現する姿勢は、香りブランディングの時代に非常に重要です。
化粧品、グローバルブランド、アート、香料開発を横断する存在として、空間・ブランディング領域でも注目すべきパフューマーです。
4. アーティスト・啓蒙家
大沢さとり 日本のニッチパフューマリーを世界へ広げた第一人者
大沢さとり氏は、Parfum Satoriの創業者であり、日本を代表する独立系パフューマーです。
華道、茶道、香道など、日本の伝統文化を背景に、和の美意識を現代の香水として表現してきました。2003年に「パルファン サトリ」としてコレクションを発表し、日本の独立系フレグランスブランドとして国際的な評価を獲得しています。
2018年には、世界の香水愛好家に影響力を持つ「Perfumes The Guide」に日本の独立系ブランドとして初めて掲載され、複数作品が高評価を得ました。さらに、HOTEL THE MITSUI KYOTOやザ・ペニンシュラ東京のルームアメニティの調香も手がけています。
2023年には文化庁長官表彰を受けるなど、香水を文化・芸術として社会に広げてきた実績も大きい人物です。
新間美也 パリで日本の美意識を香水にした国際派パフューマー
新間美也氏は、パリを拠点に自身の香水ブランド「Miya Shinma Paris」を展開してきた日本人パフューマーです。
日本人が本場フランスで香水ブランドを立ち上げ、ヨーロッパで販売してきた実績は、日本の香水文化を国際的に発信するうえで大きな意味を持ちます。
新間氏の香りづくりは、日本の自然、記憶、詩情、香道的な美意識と深く結びついています。単に「日本らしい香り」をつくるのではなく、日本的な感性をフランス香水の文脈の中で表現している点が特徴です。
また、香水に関する著書や講座、調香指導などを通じて、香り文化の啓蒙にも力を入れてきました。パフューマーであると同時に、日本人が香水文化を学び、楽しむための道を切り拓いた存在です。
平野奈緒美 大企業で実績を重ねた日本的フレグランスの担い手
平野奈緒美氏は、フランスの香料専門学校ISIPCAのパフューマリーコースを卒業後、高砂香料工業で23年間にわたり調香師として活躍してきた人物です。
主にパーソナルケア製品の香りづくりに携わり、その後、フレグランス研究所のマネジメントも経験。現在は日本香堂で、ホームフレグランス製品やパーソナルケア製品の香り開発・調香を行っています。
KITOWA、香十、花風プラチナなど、日本的な香料原料や香文化を生かした製品開発にも関わっており、香水とお香、パーソナルケア、ホームフレグランスを横断できる稀有な存在です。
日本の伝統的な香り文化と、現代のフレグランス開発をつなぐパフューマーとして、非常に重要な人物です。
まとめ
日本の香りは、歴史・技術・ブランド・空間へ広がっている
今回紹介した12名を見ると、日本のパフューマーの世界が非常に多様であることがわかります。
堀田龍志氏、藤田豊氏、佐藤孝氏のように、日本の香料・化粧品・香粧品の歴史と技術を支えてきた実務家がいます。
山根大輝氏、工藤裕子氏、稲葉智夫氏のように、D2C、ライフスタイルブランド、海外ニッチフレグランスの文脈で新しい市場を切り拓くパフューマーもいます。
渡辺武志氏、湖山友希氏、花南氏のように、ホテル、空間、プロダクト、ブランド体験を香りで設計するパフューマーもいます。
そして、大沢さとり氏、新間美也氏、平野奈緒美氏のように、日本の香り文化を芸術・教育・国際発信へと広げてきた存在もいます。
香りブランディングが広がる現在、
調香師には香水をつくる技術だけではなく、ブランドを理解し、空間を設計し、安全性まで考える総合力が求められています。
今回紹介した12名は、それぞれ異なる分野で日本の香り文化を支える第一人者です。
これからも日本から世界へ羽ばたく調香師が数多く生まれることを期待しています。
※評価基準は以下になります。
- 代表作品
- ブランド採用実績
- ホテル・商業施設など空間実績
- 業界への影響
- 技術力
- 独創性
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担当:営業部 松岡


