高級ホテルの扉をくぐった瞬間、まだ客室へ向かっていないのに「ここへ来た」と感じることがあります。その印象を支える要素の一つが、ロビーやラウンジに広がる香りです。
本記事では、日本国内のホテルで実際に採用されている香りの中から、ホテル固有の物語との結びつき、香りの独自性、建築・立地・空間との調和、館内での展開、香りの商品化という5つの観点で12事例を選定しました。各ホテルの公式サイトやプレスリリースなどの公開情報をもとに、シグネチャーセントの特徴と、香りを手掛けた会社・人物を紹介します。
目次
- ランキングの選定基準
- 第1位 万平ホテル「オリジナルアロマ」130年の歴史とすずらんを香りに
- 第2位 パレスホテル東京「Pure Tranquility」皇居外苑の静けさを表す香り
- 第3位 ホテル椿山荘東京 庭園の七季を映す「Healing Garden」
- 第4位 HOTEL THE MITSUI KYOTO「オリジナルアロマ」
- 第5位 コンラッド東京「Experience」
- 第6位 グランドニッコー東京 台場「ANOTHER TOKYO」
- 第7位 JRタワーホテル日航札幌 北海道の森林を表す「North Forest」
- 第8位 メズム東京「TOKYO CITRON/TOKYO OUD」
- 第9位 神戸ポートピアホテル「ever blue」
- 第10位 グランドニッコー東京ベイ 舞浜
- 第11位 インターコンチネンタルホテル大阪
- 第12位 ウェスティンホテル東京「White Tea」
- ホテルの香りは「人気の香調」だけでは選べない
- 香りブランディングの会社を選ぶ4つの基準
- まとめ|ホテルの記憶は香りから設計できる
ランキングの選定基準
本ランキングでは、次の5項目を各20点、合計100点で評価しました。
- ホテルの歴史や土地の物語との結びつき
- 香りの独自性
- 建築・立地・空間との調和
- ロビーや客室など館内での展開
- ディフューザーやルームスプレーなどの商品展開
なお、香りの好みには個人差があります。本ランキングは香りそのものの優劣ではなく、ホテルのブランド体験としての完成度を、公開情報に基づいて「調香師のアトリエ」編集部が評価したものです。
第1位 万平ホテル「オリジナルアロマ」130年の歴史とすずらんを香りに
香りの着想となったのは、かつて万平ホテルの敷地がすずらんの原生地だったという歴史です。爽やかなウッディノートに、すずらんのやさしく可憐な香りを重ねることで、軽井沢の自然とクラシックホテルの気品を表現しました。
館内の主要エリアでは業務用アロマディフューザーによって香りを広げ、同じ香りのフレグランススティックもホテルオリジナル商品として展開されています。香りの開発、空間演出、商品化まで一貫して設計された事例です。
香りの制作:公式には非公表
評点94点 理由:かつて敷地がすずらんの原生地だったというホテル固有の歴史を香りに転換し、空間演出から商品化まで一貫して展開している点を高く評価しました。
第2位 パレスホテル東京「Pure Tranquility」皇居外苑の静けさを表す香り
パレスホテル東京のロビーで使われているオリジナルフレグランスが「Pure Tranquility」です。名称には、都心にいながら清らかな静けさを感じてほしいというホテルの世界観が表れています。
香りはブルーサイプレス、アニス、ユーカリ、レモン、ライムなど、11種類の精油をブレンドしています。樹木とハーブの涼やかさに柑橘の光を重ね、透明感のある清涼な印象に仕上げています。
皇居外苑に隣接するホテルでは、都市の利便性と緑に囲まれた落ち着きが共存します。この香りも、華美に主張するより、ロビーの空気を澄ませるようにブランドの品格を伝える設計です。
リードディフューザー、ルームスプレー、アロマオイルなどの商品も展開されています。滞在中の香りを自宅へ持ち帰れるため、ホテルの記憶が旅行後の日常へ続いていきます。
香りの制作:公式には非公表
評点93点 理由:皇居外苑の水と緑、都心の静けさを11種類の香りで表現しています。館内演出と商品展開の完成度が高いと思います。
第3位 ホテル椿山荘東京 庭園の七季を映す「Healing Garden」
ホテル椿山荘東京のオリジナルアロマ「Healing Garden」は、開業70周年を記念して開発されました。四季をさらに細やかに捉えた「七季」の庭園美を、香りでも感じられるようにしたものです。
植物から採った12種類の精油だけでつくられた、100%天然の香りです。庭園に自生するヒノキとクロモジに、やさしい甘さの椿、果実感のある夏みかんなどを加えています。
香調は明るさと安らぎを併せ持つフローラルグリーンです。みずみずしい森の中に奥行きと芯の強さを感じさせ、庭園を歩いたときの緑、花、果実の印象を一つの香りへまとめています。
館内や庭園でほのかに使われるほか、スティックディフューザーやロールオンフレグランスとしても展開されています。広い庭園の体験を、自宅や外出先で呼び戻せる形にしています。
香りの制作:公式には非公表
評点92点 理由:庭園のヒノキ、クロモジ、椿、夏みかんなどを用い、ホテルの「七季」を香りとして表現しています。
第4位 HOTEL THE MITSUI KYOTO「オリジナルアロマ」
HOTEL THE MITSUI KYOTOのオリジナルアロマは、ホテルのブランドコンセプト「日本の美しさと」を香りで表現したものです。
着想の中心となったのは、ホテルの庭園や敷地内に植えられている数種類の松です。黒松や唐松を基調に、京都の柚子、北山杉、クロモジ、ヒノキなど、日本の植物から得られる香りを組み合わせています。
重厚な木の香りを前面に出すのではなく、柑橘の明るさを重ねることで、京都らしいしなやかさと、どこか懐かしい安心感を表現しています。ホテルの庭園、建築、京都という土地を一つの香りへまとめた完成度の高い事例です。
館内で使用されるほか、オリジナルアロマオイルとしても販売され、ホテルの記憶を自宅へ持ち帰れる設計になっています。
香りの制作:齋藤智子氏/TOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIO
評点90点 理由:敷地の松を中心に、京都の柚子、北山杉、クロモジを組み合わせ、京都とホテルの庭園を一体化しています。
第5位 コンラッド東京「Experience」
コンラッド東京のオリジナルエアアロマは「Experience」です。ロビーフロアやエグゼクティブラウンジで使用され、館内へ足を踏み入れたゲストをエレガントな香りで迎えます。
ベルガモットなどの柑橘系に、ラベンダーやバイオレットなどのフローラルを重ねた香調です。さらに、グレイアンバーとパチョリが奥行きを与え、明るさと落ち着きを一つにまとめています。
コンラッド東京は、東京湾と浜離宮を望む都市型ラグジュアリーホテルです。軽やかな柑橘だけでなく、花とアンバーの深みを加えることで、眺望の開放感と館内の格調を同時に表現しています。
ルームスプレーとディフューザーも販売されており、自宅でも同じ香りを楽しめます。「Experience」という名前の通り、香りを館内演出で終わらせず、ブランド体験として持ち帰れる設計です。
香りの制作:公式には非公表
評点88点 理由:柑橘、花、アンバー、パチョリによる都会的な香りです。ロビー、ラウンジ、商品まで一貫しています。
第6位 グランドニッコー東京 台場「ANOTHER TOKYO」
東京湾の光と水を表す香り
「ANOTHER TOKYO」は、グランドニッコー東京 台場のオリジナルアロマです。ホテルのロビーに入ると、上品で開放感のある爽やかな香りがゲストを迎えます。
ウォーターグリーンで心地よい風を、シアーウッディーで光と水の開放感を表現しています。そこへ、やさしさを感じさせるベルガモットを重ね、都市の洗練と水辺の軽やかさを両立しています。
ホテルが大切にする「晴れやかな気持ちで笑顔あふれるひととき」という思いも、香りの設計に反映されました。東京湾を望むアーバンリゾートの景色と、ロビーの明るい空間を香調でつないでいます。
アロマディフューザーや、アロマストーンとオイルのセットも製作されました。ホテルで購入した香りが再訪の動機をつくるという、滞在後まで見据えた香りブランディングの例です。
香りの制作:プロモツール株式会社
評点87点 理由:東京湾の光、水、風、開放感をウォーターグリーンとシアーウッディーで表現しています。
第7位 JRタワーホテル日航札幌 北海道の森林を表す「North Forest」
JR札幌駅直結の高層ホテルとして、客室、レストラン、天然温泉スパなどを備え、北海道の玄関口でゲストを迎えています。
香りの名称は「North Forest」です。松とライムを組み合わせたフレッシュウッディタイプで、北海道の自然の中を歩く森林浴のような爽快感を表現しています。
ホテルでは以前から、ロビー、客室階のエレベーターホール、スパの入口などで香りを活用してきました。その先のブランディング強化として、施設固有のオリジナルアロマが開発されています。
駅や空港から移動してきたゲストにとって、ロビーは旅の緊張を解く最初の場所です。松の落ち着きへライムの明るさを加えることで、北海道らしさと到着時のリフレッシュ感を両立しています。
香りの制作:プロモツール株式会社
評点85点 理由:松とライムで北海道の森林を表現しています。北海道の玄関口という立地との整合性が高いと思います。
第8位 メズム東京「TOKYO CITRON/TOKYO OUD」
メズム東京では、竹芝の海と、絶えず変化する東京の都市性を表現した2種類のオリジナルフレグランスを季節ごとに使い分けています。
春夏の「TOKYO CITRON」は、砂糖菓子のような甘さを持つグルマンなシトラスです。湿度の高い東京の春夏と、竹芝の海から吹く風に調和するよう設計されています。
秋冬の「TOKYO OUD」は、ウードを軸としたスパイシーで深みのある香りです。一つの香りを通年で使うのではなく、東京の季節や湿度の変化まで香りに取り込んでいる点が特徴です。
館内での空間演出に加え、2種類のホテルフレグランスディフューザーも販売されています。
香りの制作:フレグランスプロデューサー・石坂将氏
評点84点 理由:竹芝の海と東京の都市性を、春夏・秋冬の2種類の香りで表現する季節設計が独創的です。
第9位 神戸ポートピアホテル「ever blue」
神戸ポートピアホテルの「ever blue」は、神戸の海と空の青をイメージしたホテルオリジナルの香りです。
グレープフルーツミントをベースに、パルマローザ、ローズマリー、ブルーサイプレスを組み合わせています。港町らしい爽やかさと、ホテルで穏やかに過ごすための安らぎを両立した香調です。
正面玄関の風除室、本館1階、南館1階のエレベーターホールで使用され、オリジナルアロマグッズとしても販売されています。
香りの制作:公式には非公表
評点82点 理由:神戸の海と空をグレープフルーツミント、ローズマリー、ブルーサイプレスなどで表現しています。
第10位 グランドニッコー東京ベイ 舞浜
グランドニッコー東京ベイ 舞浜では、ロビーと各階のエレベーターホールにオリジナルの香りを導入しています。
南欧の雰囲気を持つ開放的な館内と、東京湾に面したリゾート感に合わせ、ファミリーや若い世代のゲストにも親しみやすい、心地よくリラックスできる香りが選ばれました。
館内では業務用アロマディフューザー「セントGEAR」を使用しています。さらに、同じ香りのリードディフューザーとアロマスプレーを開発し、ホテルのフロントで販売しています。
香りの名称や詳しい香調が公表されれば、ホテル固有の物語が一層伝わりやすくなるでしょう。
香りの制作:プロモツール株式会社
評点81点 理由:ロビーと各階へ展開し、リードディフューザー、アロマスプレーとして商品化を高く評価しました。
第11位 インターコンチネンタルホテル大阪
インターコンチネンタルホテル大阪のオリジナルアロマは、大阪府の花の一つである梅をアクセントに、チューリップ、ローズ、アップルブロッサムなどを重ねた、甘くやさしい香りです。
「楽しく明るい大阪」と「洗練された都会的なホテル」という二つの性格を、花と果実の香りによって表現しています。
ホテルオリジナルのルームスプレーも販売されており、館内で感じた香りを自宅でも楽しめます。
香りの制作:公式には非公表
評点79点 理由:大阪府の花である梅をアクセントに、明るい大阪と都会的なホテルを表現しています。
第12位 ウェスティンホテル東京「White Tea」
ウェスティンの代表的な香りが「White Tea」です。旅先でも休息を大切にするブランドのウェルビーイング思想を、清潔で穏やかな香りに置き換えています。
白茶の軽やかさに、木々を思わせるシダーと、なめらかなバニラをブレンドしています。爽やかさだけで終わらず、木の安定感とほのかな甘さが残るため、落ち着いた空間をつくります。
この三つの香調は役割が明確です。白茶が空気を澄ませ、シダーが輪郭をつくり、バニラが緊張をやわらげます。シンプルな構成だからこそ、世界各地のホテルで一貫した印象を伝えられます。
キャンドル、リードディフューザー、香りのスティックなど、家庭向け商品も充実しています。ホテルの眠りや休息の記憶を、自宅で再現できるブランド接点へ発展させた例です。
香りの制作:公式には非公表
評点78点 理由:「White Tea」はウェスティンホテル東京だけの香りではなく、世界各地のウェスティンで使用される共通のシグネチャーセントです。香り自体の認知度と完成度は高い一方、日本や東京固有の物語との結びつきという評価項目では順位を下がりました。
ホテルの香りは「人気の香調」だけでは選べない
ランキング上位の事例を見ると、評価されているのは単に「よい香り」のホテルではありません。土地、歴史、建築、眺望、接客思想までを一つの香りへまとめたホテルが上位に並んでいます。
たとえば、東京の水辺と札幌では、伝えたい物語がまるで違います。軽井沢、京都、大阪にも、そこでしか語れない物語があるのです。
香りブランディングは、土地や建築、接客、滞在の目的を言葉にするところから始まります。そのうえで香料を選び、ロビー、客室、エレベーターホールなど、場所ごとに強さと拡散方法を調整します。
香りを持ち帰れる仕組みも欠かせません。ディフューザーやルームスプレーとして自宅へ持ち帰れると、滞在の記憶が日常の中でよみがえり、再訪や贈答のきっかけになります。
一方、香りは強ければ印象に残るわけではありません。長時間働くスタッフ、香りに敏感なゲスト、空調や動線への配慮を含め、心地よく継続できる設計が欠かせません。
香りブランディングの会社を選ぶ4つの基準
ホテルの香りを任せる会社には、調香の提案力だけでなく、ブランドを読み解く力が欠かせません。品質を守り、空間に合わせ、導入後も無理なく運用できるよう支える力が必要です。
第一は、経験豊富な調香師がブランドの背景まで聞き取れることです。
第二は、香料の品質と安全を科学の視点から確かめられることです。
第三は、ロビーや客室の広さ、空調、人の動線に応じて、機器と香りの強さを設計できることです。第四は、導入後の補充や季節ごとの変更、商品づくりまで支えられることです。
まとめ|ホテルの記憶は香りから設計できる
高級ホテルの香りは、空間を飾る付加物ではありません。到着した瞬間の高揚、客室での安らぎ、帰宅後に思い出す余韻までをつなぐ、見えないブランド体験です。
シトラス、ウッディ、フローラル、ティーには、それぞれ異なる役割があります。大切なのは流行の香りを選ぶことではなく、ホテルが伝えたい物語に合う香調を設計することです。
※本記事で紹介したホテルのうち、万平ホテル、グランドニッコー東京 台場、JRタワーホテル日航札幌、グランドニッコー東京ベイ 舞浜については、本メディアを運営するプロモツール株式会社が香りの開発、空間演出または香り商品の開発を担当しています。ランキングは、本文記載の共通評価項目と各ホテルの公開情報に基づき、「調香師のアトリエ」編集部が決定しています。
なお、本ランキングは実地での一斉官能評価ではなく、2026年8月時点の各ホテルの公式サイト、プレスリリース、商品展開などの公開情報を対象とした編集部評価です。公開情報の範囲によって評価が左右される場合があります。
詳細・香りブランディングのお問い合わせはこちらから
担当:営業部 松岡



