〜日本一の若手調香師 渡辺武志が語る調香師シリーズ〜調香師に「犬並みの鼻」は不要?嗅覚より重要なのは「分析力」。未経験からプロを目指す適性とは

「調香師になりたいけど、鼻が普通でも大丈夫?」


実は、今国内若手No.1調香師と言われるようになった私も「普通の健康な鼻」でプロになったと断言します。

「お仕事は何ですか?」と聞かれて「調香師です」と答えると、ほぼ100%驚かれます。

さらに7割以上の人が必ず聞いてくる質問がこれです。

「じゃあ、犬みたいに鼻がめちゃくちゃ利くんでしょ?」

結論:NOです。

調香師に必要なのは「犬並みの特殊な鼻」ではなく、「普通の鼻」+「圧倒的な分析力」

未経験からでも訓練で目指せる理由を、実際に絶望→突破した私の体験談とともに解説します。

1. 調香師になるには鼻が良くないと無理?


私は幼い頃から、夕食の匂いだけで献立を当てることはできましたが、基本的にはいたって普通の嗅覚の持ち主です。実は、調香師が「普通の人より数倍敏感」である必要はありません。むしろ、敏感すぎると商品開発においてデメリットになることすらあります。

敏感すぎる鼻はむしろデメリット

例えば、ある調香師が特定の成分「A」をごく微量でも感じ取れる過敏な鼻を持っていたとしましょう。すると、彼はバランスを取るために成分Aを極端に少なく配合してしまいます。

しかし、一般的な消費者の鼻では、その量では成分Aを感じ取ることができません。これでは、狙った香りとしての意味をなさないのです。

  • 敏感すぎる鼻:成分を少なく入れすぎてしまい、一般の人には物足りない香りになる。
  • 鈍感すぎる鼻:成分を多く入れすぎてしまい、一般の人にはバランスの悪い香りになる。
  • 普通の健康な鼻:「市場の基準」になれる。これこそがプロの武器です。

多くの場合、香りは一般的な消費者のために設計されます。だからこそ、消費者と同じ感覚で香りを感じられる「普通の健康な鼻」であることが、プロとしての絶対条件なのです。

2. 調香師に本当に必要なのは「嗅覚」よりも分析力


「調香師の鼻って普通なのか」とがっかりされたかもしれません。しかし、プロとアマチュアの間には、物理的な嗅覚の鋭さではない「圧倒的な差」が存在します。

それは、「分析能力=嗅ぎ分け(分析)の力」です。

100種類以上の成分を「分解」して捉える

香りを組み立てる(調香する)際、多い時には100品を超える成分を配合します。意図した香りに近づけるための試行錯誤の中で不可欠なのが、個々の成分の「嗅ぎ分け」です。

「この処方では、あの成分が少し多すぎる」「この拡散性を出すには、あの成分を足すべきだ」といった判断は、ただ混ぜているだけでは不可能です。私たちは、日々の訓練で蓄積した「匂いの記憶」をたどり、感覚を研ぎ澄ませて、複雑に絡み合った香りを成分単位まで分解して評価します。

調香師が香料成分を分析・評価している様子

「オレンジとグレープフルーツ」が分からなかった絶望の先

今でこそプロとして活動していますが、修業時代には大きな壁がありました。当初、私はオレンジとグレープフルーツの嗅ぎ分け(分析)が全くできなかったのです。

「自分はこの世界に向いていないのではないか……」強烈な焦燥感と絶望を味わいました。

しかし、諦めずに何度も何度も挑戦し続けたある日、突然、両者の間の明確な境界線を感じ取ることができたのです。

この「壁」を乗り越える訓練こそが、単なる「鼻が良い人」を「調香師」へと変えてくれます。

かつての私がオレンジとグレープフルーツの差すら分からず絶望したのは、実は『才能』の差ではなく、『脳内データベースの構築量』の差だったのです。訓練によって境界線が見えるようになる。この経験から私は、調香師に必要なのは才能ではなく「再現可能な訓練」だと確信しました。

このプロセスこそが弊社の人材育成の核です。

3. 調香師の視点:香りを「分析的」に鑑賞するということ


これは職業病かもしれませんが、私は何か香りを嗅ぐとき、単に「好き・嫌い」では判断しません。

  • どんな成分が、どのくらいの割合で配合されているか
  • 香りの質、強さ、バランス、拡散性
  • コンセプトと香りが一致しているか

空間の匂い、食品、飲料、道端に咲く花まで、ありとあらゆる香りを分析的に捉えてしまいます。

一心不乱にクンクンと匂いを嗅ぐ姿は、傍目には「イヌのよう」に見えるかもしれません。しかし、そこで働いているのは特殊な感覚器ではなく、積み重ねた記憶と研ぎ澄まされた分析力なのです。

この分析力は、人材採用だけでなく、香りによるブランディングや空間設計においても大きな価値を発揮します。

4. 調香師の適性チェックリスト【あなたは向いている?】


こんな方は調香師の素質があります

  • 「なぜこの香りは心地よいのか?」を因数分解したくなる
  • 料理の隠し味を当てるのが好き(当てることより、推理する過程が好き)
  • 地道な実験やデータ収集が苦にならない
  • 自分の感性以上に、ユーザーの「心地よさ」を優先できる

「私たちは、この『徹底した分析力』を武器に、企業のブランドイメージを香りで具現化しています。感覚に頼らない、再現性の高い香りづくりが私たちの強みです。」

 

まとめ:香りの世界は「理解」でできている


調香師に必要なのは、特殊な能力ではなく、普通を愛し、それを分析し尽くす情熱です。

もしあなたが次に香水や花の香りに触れるときは、単に「いい匂い」と思うだけでなく、「どんな要素が隠れているんだろう?」と少しだけ意識してみてください。そこには、ただ嗅ぐだけでは見えてこなかった、複雑で美しい「香りの構造」が広がっているはずです。

香りの仕事は、特別な才能ではなく、理解と訓練で拓ける世界です。

私たちは、そうした「香りを言語化できる人材」と一緒に仕事をしたいと考えています。

香りに情熱があり、分析的に言語化できるあなたへ


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ワタナベ

Watanabe

イーストブルーの猛者 調香室期待の眠れる獅子。 座右の銘:「一石二鳥」 …

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